知らない内に、紙ぺらが1枚、貼られていた。
丁度身体の斜め後ろで、なかなか見えにくいし取りにくい位置。
昔から何かを貼り付けられることはよくある。この前なんて、人の家のネコの写真だった。
誰かが勝手に貼っていき、しばらくすると勝手に剥がれる。
よくあることなので、あまり気にしない。
だけど今回の紙はいつもと少し違っていた。
薄く黄色づいていて、大きく何か書いてあるようだった。
色の付いた紙は初めてだ。可愛らしい。文字はよく見えないけれど、風でも吹いたら見えるかもしれない。
私は、その見えそうで見えない黄色い紙ぺらに 何か大切なことが記されているように思えて、その日から身体の斜め後ろを、じっと観察するようになった。
*
木枯らし。
秋の終わり、ひゅうっと木枯らしが吹いた。
木枯らしは、ひゅるひゅると私の足元から巻き上がり、私は遂に、あの黄色い紙ぺらの文字を読むことが出来た。
紙には大きく
28
とあった。
28。数字だ。
一体何の数字だろうか。何が「28」なのだろうか。
もしかして、と思った。もしかして、これは点数なのではないか。「僕は90点だ」とか「私は40点だった」だとかを聴いたことがある。誰かが私を見て、私に付けた点数なのではないか。
28点。
一体、何点満点だろうか。私は何点減点されたのだろうか。
私はずっと、ただここに立っていただけなのに、100点満点中28点しか貰えなかったのだろうか。
28にどんな意味があるのか、いくら考えても分からないままだった。でも少なくとも、その黄色い紙ぺらは私にとって可愛らしいものでも何でもなくなっていた。
28の黄色い紙ぺらは冬の間私に付いたまま、冷たい風に掻き回されて、ぴらぴらとなびいていた。
*
小春日和。
あの28の紙ぺらは 2人の人間がべりっと剥がしていってしまった。人間は実に楽しそうに、私の28を見て笑っていた。
笑っていたのだ。私の28を見て。なんて失礼なのだろう。私は、私の知らない内に28をもらい、そして奪われてしまった。
私は自分の28すらも守れないまま、これからも この場所に立ち続けなければならない。
ポストの隣で、沢山の電線に絡まれて、立ち続けなければならない。
「28坪、丁度いいね」
私の心中など知る由もない2人の人間は、あたたかな陽射しの中、幸せそうに去っていった。