2月7日(価値とキャンバス)

一万円札と一万円分の本、値段は同じはずだけれども、一万円分の本と一万円札とを単体で並べて、両方が同じ価値だとは感じられない。

一万円札は、また一万円分の他の物に交換出来る可能性があり、本は本以上でも以下でも無いからかもしれないけれど、これからその本を読んで得る利益を加味しても、一万円分の本は一万円札の価値よりも低い気がしてしまうのは何故か。

一万円分の本も食べ物も化粧品も、"一万円分の物" に実は一万円ほどの価値は無いのではなかろうか。値段は売り手が付けるものであって、客が物そのものに感じた価値と同じとは限らない。

 


曇天の夕方、雑草が伸び放題の空き地に、ベニヤ板にペンキを塗っただけのような、華奢で真っ白なアトリエが建っている。

ドアがあったと思われる隙間から入ると、朽ちかけた木のフローリングに白い壁の狭いワンルーム、部屋の左奥に10号くらいのキャンバスが立て掛けてある。青地にクリーム色とオレンジ、油絵か水彩画か、絵の具で描かれた抽象画である。

これ以外には何も無さそうなので部屋を出ようとしたが、もしこの絵を覚えておいて「夢で見た絵を描いたんです」なんて見せて回ったら珍しがられるだろうなと、もう一度絵の前まで戻ってよく見ておいた。

アトリエから出ようとしたところで目覚ましが鳴り、そうだ、先の絵を描かなければと思ったが、思い出せるのはキャンバスに鮮やかな、絵の具の青さだけであった。

secret.[click].